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東京高等裁判所 昭和34年(く)6号 決定 1959年3月30日

少年 K(昭和一八・八・二三生)

主文

原決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は、抗告申立人作成の昭和三十三年十二月三十日附抗告申立書に記載してあるとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は、原決定の事実誤認を主張するけれども、少年保護事件記録に現われた証拠によれば、原決定が認定した少年の強姦、強盗、賍物寄蔵の各非行事実を認めるに十分であるから、右所論は理由がない。

次に本件少年を初等少年院に送致収容することの適否につき按ずるに、右少年保護事件記録、少年調査記録に徴すれば、少年は、小学校五年生の一学期までは祖母の下に育てられ、我儘な生活をしていたこと、五年生の二学期中に父の下に引取られたが、父は少年の訓育については放任的で余り関心がなく、母も継母であるため少年に対してはとかく遠慮勝ちであつたため、少年は両親に対して次第に反抗的となつたこと、昭和三十一年四月○区××中学校に入学後もとかく学校を怠り勝ちであつたが、二年生の三学期頃から、少年は不良グループと交際するようになつて、急速に不良化したが、父は頑固で、少年に対してはとかく愛情を欠き、温情を以て接することを為さず、少年の心理に意を用いず、只自己の意に従つて叱責するのみであり、少年の非行につき、学校当局、警察署から注意を受けても関心薄く、真味になつて少年を案ずることも少なく、他方継母の訓育方法を非難して、果ては少年の補導については継母をして口を入れることを禁ずるが如き状態であつたため、少年は自宅に落付かず、怠学、家出、浮浪が重なり、不良徒輩と交遊して悪化の一途をたどり、遂に本件の如き非行をくり返すようになつたことが認められる。以上の如き事実を総合すると、本件当時少年の両親には少年を保護する能力があつたものとは認め難く又少年の性格的欠陥を矯正せしめるためにも、かつ本件の数々の非行事実の内容から考慮しても、少年を一定期間、施設に収容するのが適当であると認められないではないから、原決定が少年を初等少年院に送致する旨の決定をなしたのは、事宜に適した処置であると認められる。しかしながら当審において事実の取調をなした結果によれば、父は先ず自己の性格を三省し、従来の少年に対する考え方殊に慈愛に欠けた態度を反省すると共に教育、指導方法の過誤を痛感し、将来少年が再び非行をくり返えす虞ありとの点については、一家を挙げ死力を尽して努力する旨を誓い、又環境を変えるため上司に懇願して自己の職場を変更してでも、少年を悪から守るとの覚悟を固うしたことが認められ、又前記記録によれば、少年はいわゆる親の真の愛情に飢えていたため両親に親しめず、不良との交遊に興味を感じて次第に不良化したものであるが、その性格は自己不確実、自己意思欠如、心情不安定で、結局自信なく、一方には周囲の圧迫を恐れ、他方には心の空虚を充たすべく、不知の間に不良の徒輩に利用されて非行に走つたもので、その性は未だ本来の悪に染侵されたものではないとも認められるので、現在においては、少年を初等少年院に送致収容するより、少年の補導、訓育に慈愛を込め全力を傾注する旨その覚悟を新たにした両親の下において、一定の保護観察に服し、反省、自重し、更生の生活をなさしめる方が、此際少年のため最も適切妥当な措置と認められるから、結局抗告はその理由があることに帰するので少年法第三十三条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 伊藤顕信 河原徳治)

別紙一 (原審の保護処分決定)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

一、事実

別紙のとおり。

適条 第一につき刑法一七七条、第三につき二五六条、第二第四につき二三六条。

二、少年は、中学三年に在学中であるが、幼にして母に死別し、祖父母の手に育てられ、昭和二九年一〇月末、父と継母の下に引き取られたものの、真の愛情がわかず、父は継母に気がねし、継母と少年との折合がうまく行かず、夜遊び、家出、外泊などの非行があらわれ、中学三年になつてからは、怠学、家出、浮浪、不良交友がますますはげしくなるに至つた。父は公務員であるが、放任的で、教育に対する関心乏しく、少年の引取を希望するものの、本件数々の悪質な非行に入るようになり、情意変調いちじるしい、少年に対する保護能力ありとは認められない。少年は義務教育を終えなければならず、性格矯正も念を要する状態にあり、収容保護の方法によるほかはないと考えられるから少年法二四条により主文のとおり決定する。(昭和三三年一二月一八日 東京家庭裁判所 裁判官 藤原英雄)

別紙二(犯罪事実)

一、少年L外五名は共謀の上、昭和三十三年七月六日頃の午後十時頃、東京都○区××町△丁目○○○○公社グランドに於て、東京都○区××町△の△△番地 店員M子(当十六年)

を無理矢理に押倒し、同女のスカートをまくり上げてズロースを脱しいやがる同人の抵抗を制圧して同所で交互に強姦したものである。

二、少年両名は外四名と共謀の上、昭和三十三年十一月十二日午後七時四十分頃、東京都○区××町△の△番地先路上において、同所を通行中の東京都○○区××町△の△△△△番地学生N(当十六年)を取り囲みナイフようのものを突きつけ、

「逃げたりすると刺すぞ、金を持つているか調べてあつたら全部貰うぞ」

と脅迫して同人の抵抗を抑圧して畏怖せしめ同人よりシチズン十二型腕時計壱個外一点(時価四千二百円相当)を強取したものである。

別紙三(差し戻し後の原審の保護処分決定・報告事件四号)

主文

少年を東京保護観察所の観察に付する。

理由

(本件非行事実)

少年は中学在学中複雑な家庭事情による家庭内の雰囲気になじまず、不安定な心理状態でいる間に、怠学、家出、浮浪、不良交友等がはげしくなり三年在学中次のような罪を犯すに至つた。

(一) L共四名と共謀の上昭和三三年七月六日頃の午後十時頃、○区××町△丁目○○○○公社グランドにおいて店員M子(当一六年)を無理矢理に押倒し、同女のスカートをまくりあげてズロースを脱がせいやがる同女の抵抗を制圧して同所において、強姦を遂げたもので、この所為は刑法第一七七条第六〇条の罪に当る。

(二) 同年六月二四日頃同区×××町所在東北線踏切先路上においてOが窃取した自転車一台をその情を知りながらこれを保管しもつて賍物の寄蔵をなしたものでこの所為は同法第二五六条に該当する。

(三) R他四名と共謀の上同年一一月一二日午後七時四〇分頃同区××町△の△先路上において通行中の学生Nを取り囲みナイフようのものを突きつけ、「逃げたりすると刺すぞ金を持つているか調べてあつたら全部貰うぞ」と脅迫して同人の抵抗を抑圧して畏怖せしめ、同人よりシチズン一二型腕時計一個他一点を強取したもので、この所為は同法第二三六条第六〇条に該当するものである。

(本処分に付する理由)

少年は前記非行により、昭和三三年一二月一八日東京家庭裁判所において、初等少年院送致決定を受け、○○少年院に収容されたが、保護者より抗告申立があり、東京高等裁判所において審理の結果昭和三四年三月三〇日「原決定を取消す。本件を東京家庭裁判所に差し戻す。」旨の決定があつた。仍て当裁判所において調査の結果、少年自身も数ヶ月の少年院生活において過去の非行について反省をした面もあり、保護者(父親)も法務省事務官としての体面をも考えて少年の監護教育について改めて責任を痛感して来た模様であるから、この際少年を父親のもとにひきとらせ従来わだかまりのあつた親子間の感情を融和させ、他面少年並に家庭環境について補導援護の手を加えるのが適当であると思料し、裁判所決第四条、少年法第二四条一項一号に則り、主文の通り決定する。(昭和三四年四月二七日 東京家庭裁判所 裁判官 森田宗一)

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